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2014年08月20日
公的年金に対する考え方

 年金は日本国民ならだれでも等しく同じ金額もらえるものではありません。ということは誰しも知っていることと思いますが、わかっているようで案外理解していないように見えることは、年金制度は、生命保険や健康保険等と同じく『保険』であるということです。

 厚生年金は『厚生年金保険法』と所掌の法律に『保険』が付いていますが、国民年金には『国民年金法』と『保険』がついていませんので、保険であるということがなかなか意識されていないように思えます。これは国民年金法が制定された昭和34年時点(同年11月1日)で、この法律に基づき保険料を無拠出で当時70歳以上の高齢者に対して福祉年金が支給されたため、法律に『保険』の文言がつけられなかったからです。

 保険は被保険者から保険料を徴収し、被保険者に保険事故(保険を支払うべき事由)が生じた場合に給付金を支給する制度です。年金制度も同じく保険事故(この場合老齢・障害・死亡がそれにあたります)が生じた場合給付金が支給されます。

 

 保険制度ですから保険事故が生じない場合、保険料が掛け捨てになる場合が生じ得ます。老齢というほとんどの人が迎える保険事故があるがゆえに、掛け捨てになるケースは非常に少ないことは事実ですが。

 掛け捨てになるケースというのは、本人が亡くなった場合にあります。老齢年金をもらう前に死亡する場合や、もらい始めていても比較的短期間で死亡する場合があります。また、死亡という保険事故に対する給付には、遺族年金がありますが、それをもらうべき遺族がいない場合や、もらうべき遺族が配偶者(妻の場合)で夫の死亡時に35歳未満の場合(5年間の有期年金のため)などがあります。

 また、保険料を納める被保険者期間(保険料納付済み期間ではありません)が25年(現行の制度では300ヶ月、平成27年10月1日からは10年120ヶ月)を割り込んでいる場合は老齢年金の支給はありません。

 障害年金では保険料納付要件(障害が確定した日の直近1年間の保険料未納期間がある場合など)を満たしていない場合などは支給されません。

 

 『年金制度は破綻するからもらえない』ということも、若い人を中心に良く話ですが、あまり根拠のある話とは思えません。

 現在の年金制度は『賦課方式』を採っており、これは、その年に集めた保険料を年金受給者に支給しており、足らない分を税金と積立金の取り崩しで補っています。税金の投入が50%、積立金の取り崩しが3~5兆円。厚生年金・共済年金等、年金制度全体の積立金が約150兆円。

 年金制度全体が制度上統合していないため、積立金の取り崩しに長短ありますが、このまま積立金の取り崩しが続けは、30年~40年で積立金が枯渇するといわれています。

しかし、平均寿命がこのまま上昇し続けるには無理があること、物価上昇率が年平均1~2%で20年も30年も続くとは考えにくいこと、高齢者(65歳以上とすると)の人口の比率が65歳未満の人口の比率と比べて永久に増大していくとは考えにくいこと、積立金の減少が一定の金額で続くとは考えにくいこと‥‥等々の理由から年金制度が破たんするという結論を導くには相当無理があります。

 

 日本は『既得権』に対して非常に厳しく考えることが多く、年齢が若くてもすでに少しでも保険料を納めている人に対して、その保険料を全部反故にして年金制度はなくなりました、となることはまず考えられません。もちろん、選挙で必ず投票を行う高齢者に不利な制度は国会議員にはできるものではありませんから、損はどうしても若年者にしわ寄せがいくという弊害はあることは認めなければなりませんが、積立金が枯渇するから制度を廃止しますといったことにはなりません。

 ただ、すでに年金を受給している方に対して、今後は制度上少しずつ減額していくようになっていますので、物価が上昇していっても物価上昇率と同じ割合で年金の受給額が上がるわけではなくなっています。

 

 年金の受給額の話をしているとほとんどの方が、生涯年金を総額いくらもらえるかという話をよくされます。年金の繰り上げ・繰り下げの話の中にも必ず出てきます。

 しかし、年金の受給額の視点は実はそれだけではありません。

 1つ目の視点は、『月額がいくらになるか』ということです。繰上げ・繰り下げの損得の話ではありますが、『いつ死ぬかわからんので早い目にもらった方が』という話になりがちです。もともと年金だけで十分な老後の生計費を賄える人は少ないのですが、老後の生計費の大半を占めるのも年金です。

 月額が少ないので繰り下げして受給額を増やそうという考え方もあり得るわけです。そのためには、定年後年金受給まで少しでも働くことを考えようということも考えていくことになります。これは年金受給年齢が間近に迫ってから考えたり、行動に移すのでは遅すぎますから、できるだけ若いうちに『ライフプラン』として考えていくべきことです。

 

 2つ目の視点は、ほとんどの方が『生涯年金を総額いくらもらえるか』というと、『自分のことだけ』と考えて損得を判断しています。しかし、本人が亡くなっても残った人(ほとんどの場合妻)に生涯遺族年金が支給されます。額は本人の老齢厚生年金の4分の3ですから少々減額になりはしますが、本人が亡くなっても配偶者がその後5年も10年も生きれば、本人が掛けてきた保険料は十分元が取れることになります。

  後に残る人のことも、考慮に入れて考えてください。

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