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年金法がひっそりと改正されました

 先の通常国会で年金法が改正されました。いつもと違ってほとんど話題にならなかった印象がありますので、国民のどの程度の人が関心を持っているのか疑問ですが結構大きな改正でした。

 これは、「税と社会保障の一体改革」という名のもとに行われたため、消費税の成立アップという話題の中に隠れてしまい人々の関心を呼ばなかったのかもしれません。

改正点の主なものは以下の6つです

1.受給資格期間の短縮(平成27年10月1日から)

 現在の受給資格期間は25年間ですが、これが10年に短縮されます。現在受給資格期間が25年間に足りないため無年金となっている高齢者に対しても10年間資格期間を満たしている人に対しては、保険料納付済み期間に応じて年金が支給されます。

 

2.基礎年金国庫負担分2分の1の恒久化(平成26年4月から)

 現在はあちこちからお金をかき集めて(ここ2年ほどは赤字国債によって)2分の1を維持していますがそのかき集めている部分に消費税が当てられます。

 

3.短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大(平成28年10月から)

 以下の条件に適合する人に対して厚生年金・健康保険の適用が実施されます。

① 週20時間以上

② 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)

③ 勤続期間1年以上

④ 従業員501人以上の企業の労働者

 

4.産休期間中の厚生年金・健康保険の保険料の免除(2年を超えない範囲内で政令で定める日から)

 現在は育児休業期間中だけ認められている厚生年金・健康保険の保険料の免除が、産前産後休業期間中まで拡大されます。

 

5.遺族基礎年金の父子家庭への支給開始(平成26年4月から)

 現在、遺族基礎年金は子のある母(いわゆる母子家庭)にしか支給されてきませんでしたが、父子家庭にも支給されるようになります。

 

6.低所得者・障害者等への福祉的な給付措置を講ずる(2年を超えない範囲内で政令で定める日から)

 受給資格期間を満たしていても年金額が少額な低所得者や障害者等に対して一定の上乗せ給付を実施するというものです。

 

 そのほかにも、「所在不明高齢者に係る届出義務化」、「国民年金任意加入者の未納期間の合算対象期間への参入」、「未支給年金の請求範囲の拡大」等々細かいところも含めれば多岐にわたる改正が実施されました。

最低賃金はいつから適用か?

 地域別の最低賃金の改定されると、いつから賃金に反映させなければならないのかという、解釈について質問がありました。最低賃金に抵触する場合の改定は、実施日を含む月の翌月からするのか、当月からするのかという質問でした。

 平成24年の最低賃金の改定日は、大阪府の場合9月30日から(800円)、兵庫県は10月1日から(749円)、京都府は10月14日から(759円)になります。

 法律上の解釈は、改正(施行)したその日から法律上の効力が発生いたしますので、その日以降(施行日を含む)の分として支払われた賃金から法律の効力が及びます。

 日給制や時給制の場合は、賃金計算期間が1日から末日の場合、10月1日施行の場合は賃金計算期間内に額の変更は必要ありませんが、大阪府の場合は、9月分の1日(30日)だけが改正法に引っかかりますので、9月1日~29日までの勤務に対しては、最低賃金に達していなくても、その賃金額が9月30日以降は最低賃金を下回る場合は、その日1日だけ800円以上にしなくてはなりません。

 つまり、9月30日をはさんだ前後に賃金計算期間がある場合は、1つの賃金計算期間内に時給若しくは日給が2種類にしなければならない場合があるということになります。

 それでは、月給者の場合はどう考えたらよいのでしょうか。月給制で最低賃金を下回るケースは考えにくいですが、歩合給の場合等が考えられます。

 月給制の場合はその月の暦日数の労働に対して報酬が支払われることになっていますが、最低賃金の計算ではで実際に労働した日で計算します。

 たとえば、大阪府の場合で1日から末日までを1ヶ月とするケースでは、1ヶ月の賃金総額(残業手当や休日出勤手当や深夜勤務手当は除く)を当該期間の勤務日数で除し、9月30日の1日分の金額を当日の所定労働時間で除した金額が、最低賃金を下回っていた場合は、最低賃金を上回る支払いが必要になります。

 また、その日に残業した場合や、休日出勤をした場合は、それぞれ最低賃金を上回る額で計算し直す必要があります。

国民年金後納制度始まる

 平成24年10月から国民年金の保険料の後納制度が新しく始まります。

 従来の後納制度と言えば、以下の制度がありました。

① 法定免除(全額免除)による後納制度

  所得が法定以下の場合に、自動的に免除となる。10年以内であれば追納ができる。

 ⇒ 受給資格期間(25年間)に計算されるが、受給額には、追納しない限り反映しない。

② 申請免除による後納制度

  所得が一定以下の場合に、申請により保険料が免除となる。所得額に応じて、4分の3免除・半額免除・4分の1免除がある。10年以内であれば追納ができる。

 ⇒ 受給資格期間(25年間)に計算されるが、受給額には、追納しない場合は、納付した保険料の割合に応じて反映する。

③ 学生の納付特例による後納制度

  20歳以上の学生の場合に、保険料の納付が猶予される制度(免除ではない)。10年以内なら追納できる。

 ⇒ 追納しない限り、受給資格期間にも、受給額にも反映しない。

④ 30歳未満の若年者に対する納付猶予制度

  30歳未満の場合の若年者を対象に国民年金保険料の納付を猶予する制度。10年以内なら追納できる。国民年金の保険料なので、厚生年金・共済年金等の強制適用事業所に勤務している場合は対象外。

 ⇒ 追納しない限り、受給資格期間にも、受給額にも反映しない。

 

 今回上記に加えて、平成24年10月から平成27年9月までの3年間の時限措置として、過去10年以内に国民年金保険料の納付忘れ(意図的に納付しなかった場合も含めて)の期間がある場合に、申込によって納付できる制度が始まります。

 つまり、法定の時効が2年間から、10年間に延長される制度です。

 

対象者は、

① 20歳以上60歳未満の人

  10年以内に納付しなかった人や未加入期間がある人

② 60歳以上65歳未満の人

  ①の期間のほか、任意加入中に納付漏れのある人

③ 65歳以上の人

  年金の受給資格がなく(保険料納付期間・免除期間・カラ期間の合算が25年間に足りていない人)、任意加入中の人など

 

 手続きは、申込をしなければなりません。年金事務所に対して「申込書」の送付依頼をします。方法は、窓口で貰う、電話で依頼し自宅等に郵送してもらう、または日本年金機構のホームページから様式をダウンロードする、などして申込書を手に入れます。

 申込書に必要事項を記入し年金事務所に提出(間違いのないよう、窓口に持参した方がいいでしょう、少々の添付書類も必要になるようです)すると、審査・承認の後に納付書が発行されますので、その納付書で、金融機関から納付します。市町村の役所・年金事務所の窓口では納付できないようです。

 

 平成24年度中に納付できるのは、次の額です。

後納保険料

当時の保険料額

加算額(延滞金)

平成14年度

14,940円

13,300円

1,640円

平成15年度

14,720円

13,300円

1,420円

平成16年度

14,510円

13,300円

1,210円

平成17年度

14,560円

13,580円

980円

平成18年度

14,610円

13,860円

750円

平成19年度

14,640円

14,100円

540円

平成20年度

14,760円

14,410円

350円

平成21年度

14,840円

14,660円

180円

平成22年度

15,100円

15,100円

加算なし

・後納保険料は、(当時の保険料+加算額)です。

・後納保険料は、毎年改定されます。

・納付は月単位でもできますが、時効が早く到来する方からしか納付できません(納付の時期が指定できないということです)。

・10年目は、月ごとに納付の期限が到来します。

  例:平成14年10月分 ⇒ 平成24年10月31日

    平成14年11月分 ⇒ 平成24年11月30日

    平成14年12月分 ⇒ 平成24年12月31日という具合です。つまり、10年が到来すれば、それ以前は納付できないということです。

・23年度の記載がありませんが、2年以内の場合は通常の納付になります。

 

 未納部分を納付すると、基礎年金部分の受給額が増えます。その場合の目安額として(1ヶ月あたり)、以下のようになります。

876,500円(平成24年度満額の年金額)

1,638円(年額)が一生涯

480ヶ月(40年×12ヶ月)

変な保険料額表

 毎年、3月の健康保険料率・介護保険料率・児童手当拠出金率(変更のない年もある)や、9月の厚生年金保険料率(平成29年9月までは毎年)の改定が行われます。

 その保険料率が改定されるたびに、会社で保険料の計算を行い給料から控除してもらうために、全国保険協会や日本年金機構から『健康保険・厚生年金保険の保険料額表』が発表されます。

 その『健康保険・厚生年金保険の保険料額表』をよくご覧いただきますと、平成18年4月から健康保険の保険料額表に、金額の低い方に4等級、高い方に4等級が新たに設置されているのをお気づきのことと思います。

 高い方の等級の新設の制度は従来からありました。

 『毎年3月31日における標準報酬月額等級の最高等級に該当する被保険者数の被保険者総数に占める割合が1.5%(平成18年改正以前は3%)を超える場合において、その状態が継続すると認められるときは、その年の9月1日から、政令で、当該最高等級の上に更に等級を加える標準報酬月額の等級区分の改定を行うことができる。』(健康保険法第4条第2項)

 物価上昇に伴う賃金の上昇に応じて、数年に1度、最高等級の新設がなされてきました。これは、物価上昇に伴う医療に係る保険点数の上昇に保険料収入の増大を図るためです。

 

 ところがバブル崩壊後、超長期にわたるデフレ下で賃金は上がらない状態が続く上に、比較的医療費のかかる高齢者数が徐々に増えるに伴って医療費が増大していった結果、保険財政が年々悪化するという悪循環が始まっています。

 従来は保険料率の引き上げで対応してきましたが、それでも医療費の増大に保険料収入の増加が追い付かない状態となってしまいました。

 そこで、平成18年に最高等級の上に、一気に4等級を新設し保険料の収入の大幅増が図られることになりました。

 

 それ以前から社会保険制度にパートも取り込んでいこうという議論があり、現在は労使双方の反対が厳しく議論だけで法案化は進んでいませんが、健康保険法の改正に合わせて加減の等級の4等級も新設されることになったわけです。

 

 現在の制度で法律上強制的に被保険者の適用になるのは、労働時間数及び勤務日数が、通常の労働者と比べて概ね4分の3以上の労働者とされています。週の所定労働時間が40時間(1日8時間として週5日勤務)として、週30時間(かつ週4日以上勤務)以上の勤務をしている者が対象となります。ただし、この規定は法律のどこを探してもなく、当時厚生省の健康保険課長の内部通達(内翰「ないかん」と言います)に依っています。つまり法的な根拠がない状態となっています。

 《通常行政通達は「次官」または「局長」の名で発出されるものが法的拘束力を持つといわれています。》

そこで、雇用保険法と同じく新たに保険適用の対象者に想定されているパートは、『週20時間以上勤務する者』と健康保険法の本則上に記載して法的拘束力を担保しようとしています。

 

 それでは、現在の強制加入の被保険者の等級の下限はいくらになるのでしょうか。例として、1日6時間・週5日勤務(週の所定労働時間数が30時間になります)場合を考えてみます。

現在の大阪府の最低賃金額は、786円で計算すると、

 786円 ☓ 6時間 ☓ 20.5日(土日祝のみ休日の場合の月平均勤務日数)

 = 96,678円

 交通費を考慮しない場合、第5等級の98,000円になります。

 

 そうすると、大阪府の場合、第4等級以下は存在しないことになります。ところが、私の経験上、第4等級88,000円の資格取得届を出して認められたことがあります。詳細はここでは記載できませんので、ご興味がおありの方は直接お問い合わせください。

無断欠勤の懲戒解雇について(2)

 懲戒解雇を即日に行い、『解雇予告除外認定申請』を行った結果、『不認定』となった場合、会社はどのような対応を取るべきでしょうか。

 対応方法は3つあります。

 ひとつは、事後になりますが解雇予告手当を支払うという方法です。これは何とも締まりのない結果となってしまいますが、労働基準法違反について監督署ともめることになると少々煩わしいということで早々にこの件の幕引きを図るためです。

 次は、解雇日を当初の解雇日から30日後へとずらしてしまう方法です。これも後の手間すなわち、社会保険・雇用保険等の資格喪失日が変更をする手間がかかったり、その30日間の給料の取扱いを、会社都合の休業として休業手当の支給が必要になったりしますので、すっきりとはいきません。

 ただ、30日分の解雇予告手当よりは支払額が大幅に少なくなります(解雇予告手当の概ね40%程度)。

 3つ目の方法は、そのまま押し切るという方法です。先月号でも解説いたしましたが、『解雇予告除外認定』がそのまま懲戒解雇の即日解雇の可否の判断の理由にはなりませんので、会社がこの懲戒解雇には、『客観的に合理的な理由、社会通念上相当』と判断できるならばこの方法が最善となります。

 

 問題は、本当に『客観的に合理的な理由、社会通念上相当』と言えるかどうかです。残念ながらそういえない場合が相当あるというのが実感です。

 

 そこで、以下は無断欠勤を行う従業員対策です。

 

 絶対的な大原則として、放っておかないということです。必ず欠勤の理由・欠勤の日数を確認すること、欠勤の予定に数が経過する前に状況を確認することが必要です。

 できるだけ無断欠勤の状態を作らないことです。これが不良社員を生まない大原則です。

 

 従業員が確信的に欠勤をするのであれば、つまり退職を考えているのであれば対策は早くなります。

 よくあるケースは、突然理由も告げずに休んでしまって、連絡が取れなくなることです。そのまま退職してしまう場合でも、本人の意向を確認する手続きは必要です。これは、自己都合退職にするため、本人が会社都合だと主張しても安定所等に認めさせないためです。

 従業員に連絡が取れないのであれば、会社に申請している自宅を確認する、家族に連絡を取る、内容証明郵便等受領が確認できる書面で出勤を促す等の手続きを行います。

 それでも連絡してこない場合に退職の意思ありと解釈し、自己都合退職の手続きを取ります。この場合、離職証明書は原則として発行手続きをせず、後日本人から手続きの要請があれば、その時点で退職届等を取ればよろしいと思います。

 法的に完全を期すのであれば、内容証明郵便等で連絡を試みても、受領者がいないなどで返送される場合などは、『公示送達』という方法があります。管轄の簡易裁判所にて、手続きを行い、裁判所が公示し2週間を経過すれば、本人に会社の意思が到達したとして、会社の法的な手続きが完了し退職の手続きに移ることができます。

 

 次に、従業員に退職する意思がなく無断欠勤を繰り返す場合です。この場合は原則として無断欠勤1回毎に懲戒処分を行います。

 各社ごとに定められている就業規則の懲戒事項の内容にもよりますが、最初は訓戒(厳重注意する)若しくは戒告(厳重注意したうえで始末書を取る)を行います。

 今まで無断欠勤したこともない従業員が、たまたま無断欠勤してしまった場合は、懲戒ではなく単なる上司による口頭注意でもよろしい(ただし、無断になった理由ははっきりと調査をしておくべきです。単なるうっかりミスなのか、ひょっとしたら家庭の事情か、身体的な都合か、精神的な事情があるのかなど、労務管理上本人だけに解決を求めるだけでなく、会社もその解決に関与していくべきです)が、遅刻があったりしてやや勤務態度がルーズな場合は、その都度厳しく会社の態度を示す必要があります。

 口頭で注意をすることはどの会社でも上司が行っていることでしょうが、懲戒処分としての口頭注意を早い段階から実施しておくことが、のちの不良社員化を防ぐことになり、また最終的に懲戒解雇の処分を行うための必要な手続きになります。

 

 2~3度訓戒・戒告処分を実施したうえで、それでも改善しない場合は処分のレベルを出勤停止なり減給等に引き上げます。その処分も1~2回実施しますが、さすがに短い期間(2~6ヶ月)でここまで処分が続くと、最後は「諭旨退職」もしくは「懲戒解雇」となります。

 ただ単に「無断欠勤2週間」だけでは「懲戒解雇」をしても『客観的に合理的な理由、社会通念上相当』とは言えませんから、『解雇予告除外認定』は出ませんし、裁判で争いになった場合も勝てる状況にはなりません。

 

 労務管理は非常に手間暇がかかりますが、それをおろそかにしては労使間の争い事は多発してしまいます。最も間違った対応で、最も多い対応が、無断欠勤をはじめとした会社のルール違反をする従業員に対して日頃はさほど注意せずに、急に大きな注意をしたり、突然に大きな懲戒処分を発したり、挙句の果てはいきなり懲戒解雇を検討するということです。

 何事もこつこつと、問題は小さい段階で解決する姿勢が重要です。

 

障害者雇用率引き上げへ

 平成25年4月1日から民間企業の障害者雇用率が1.8%から2.0%に引き上げられる予定ですが、中小企業の場合は直接関係ないとお考えの向きもあろうかと思います。

 しかし、障害者雇用率の未達の企業に対して、未達1名に対して月額5万円を徴収される「障害者納付金制度」の適用企業規模が、従来は300人以上の大企業だけでしたが、平成22年7月1日から、200人以上の企業(事業所単位ではなく法人単位)になっています。

 今後平成27年4月1日からは、100人以上の企業(同上)が対象になります。この人数は、常時雇用する労働者数ですので、パート・アルバイト・嘱託等(但し週の所定労働時間20時間未満の労働者は除く)の身分形態を問いません。案外「別世界での話」とはならない可能性がありますので、企業規模が近い会社では、そろそろ真剣に考えていく必要があります。

 ちなみに障害者雇用率達成企業に対しては、達成1人につき月額27,000円の障害者雇用調整金が交付されます。

無断欠勤の懲戒解雇について

 「無断欠勤」とは、一般的な解説は「無届欠勤のことをいう」とされていて、届け出がなく、かつ許可を得ていない欠勤のことをいいます。欠勤の理由が何であれ「就労」は従業員の義務的事項ですから、欠勤する場合は事業主の許可が必要になります。

 具体的には、私傷病等で欠勤が必要になった場合、本人(場合によっては家族)から「休ませていただきたい」と電話等で届出があったとします。その時に「何日休む予定のか」ということを聞いておく必要があります。

 もちろん普通の社会人であれば、従業員の方から「何日休ませてください」と申し出ることが常識ではないかと思いますが、そうでない場合もままありますので注意が必要です。

 届け出た日数が経過すれば、更新の意思表示がない場合は当然出勤してくることになりますが、そのまま休み続けた場合は問題になります。すなわち届出日数を経過すれば以後は更新の届け出がない場合は、そこから無届欠勤になります。

 無断欠勤にしないためには、直属の上司若しくは担当部署から欠勤の状況について調査(要は欠勤している本人に対する問合せ)する必要があります。そのままほっておいても、病気が治ればシレっと出勤してくる人もありますが、その無届期間の取扱いをどうするのか、悩むことになってしまいます。給料を支払わなければいいというようなものですが、会社のルールはそういったルーズな運用から崩れてくるものなので、しっかりとした運用を行うべきだと思います。

 

 さて、多くの会社では就業規則において懲戒解雇の項目に、『2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合』と記載されています。

これは労働基準法第20条第1項及び第3項に「労働者の責に帰すべき事由に基づいて」即日解雇をする場合は、行政官庁(労働基準監督署)の認定を受けなければならないと規定されていますが、そのことについて行政通達(昭23.11.11基発第1637号、昭31.3.1基発第111号)に、「除外認定に当たっての労働者の責に帰すべき事由」の中の一つに「2週間以上、正当な理由がなく無断欠勤をして、出勤の督促に応じない場合」と記載されているところによります。

 

 一般的に懲戒解雇をする場合は即日解雇が原則とされていますが、その場合に労働基準法の規定に基づいて、労働基準監督署に対して、「解雇予告除外認定」の申請をしなければなりません。

 それでは、「解雇予告除外認定」を受けなければ懲戒解雇として即日解雇できないのかという疑問をお持ちの方も結構おられるのではないかと思います。

 ご存知のように、「除外認定」は申請してから結果の出るまで1ヶ月程度かかっています。結果が出ないと解雇日が決定できない状態に陥りかねません。また、都合よく「認定」が出れば解雇申し渡した日に即日解雇が成立する(行政通達昭63.3.14基発第150号)とされていますので、先にした即日解雇が無理なく成立したことになりますが、残念ながら「不認定」になった場合はどうなるのでしょうか。また、「除外認定」の申請をしないと即日解雇ができないのでしょうか。

 

 結論から言いますと、「除外認定」を受けなくても解雇予告手当の必要のない即日解雇はできます。

 その理由は、「解雇予告除外認定」の法的な位置付けにあります。厚生労働省労働基準局編「労働基準法コメンタール(上)」(平成23年発行317頁)に、次のように記載されています。

『解雇予告除外認定の性質は、予告手当の支払いを免れようとする使用者の恣意的判断を規制する意図で監督指導上課せられた行政庁の行為であって、解雇予告除外事由に該当する事実が存在するか否かを確認する行為であると解される。したがって、認定は解雇の効力発生要件ではなく、認定申請及び認定決定の有無にかかわらず、客観的に解雇予告除外事由が存在する場合は、予告手当の支払いなき即時解雇も有効に成立する。』

 

 つまり、「除外認定」は解雇を成立させるための要件ではなく、解雇予告除外事由に該当するかしないかの行政庁の確認行為ですから、客観的に「労働者の責に帰すべき事由」がある限り、認定申請・認定決定の有無に関係なく、即時解雇は有効であるということになります。

 また、仮に認定が出る前に即日解雇を行い、結果として不認定が出たとしても、そのことによって即日した解雇が無効になることはないということになります。使用者が行った普通解雇でも懲戒解雇でも、それ自体が合法的かどうかの最終判断は裁判所が行うことになりますので、なされた解雇が不服な場合は従業員の方から裁判所へ訴え出る手続きが必要になります。

 

ただし、即日解雇をして不認定となった場合には、労働基準法第20条に基づく解雇予告手当が、懲戒解雇であっても結果として必要になります。ですから、よほど懲戒解雇理由に自信がある場合でないと、予告手当のない即日解雇はしない方が賢明かもしれません。

パワーハラスメントの定義

 従来パワーハラスメントの定義については、セクシャルハラスメントと違って、法律上の定義がなく(セクハラの定義は『男女雇用機会均等法』)、さまざまな機関・NPO等から発表・報告・書籍等の形で出ています。

 

 今回、『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議』が発表した『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する報告』内に初めて公式に定義づけられています。

現時点ではパワハラの定義について、法律上に規定はされていませんが、厚生労働省が設置した公式な審議会が発表した見解なので、今後あらゆる場面で用いられ、また、法律に盛り込まれる場合は、この定義が使われることになります。

 

定義

 『職場のパワーハラスメントとは、同じ職場に働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為をいう。』

 但し、優位性に関しては、『上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものを含む』とされています。

⇒上司から部下へというものが多いが、先輩・後輩間や同僚間、部下から上司に対しての行為も含まれる。

 ⇒上記の以外にも、顧客や取引先から、取引上の力関係などを背景に、従業員の人格・尊厳を侵害する行為がなされるなどもあります。

 ⇒『職場内の優位性』には、「職務上の地位」に限らず、人間関係や専門知識などのさまざまな優位性が含まれます。

 ⇒『業務上の指導との線引きが難しい』という見解に対しては、『業務の適正な範囲を超える』という趣旨としている。

 ⇒直接的に『精神的・身体的苦痛を与える』だけでなく、『職場環境を悪化させる行為』も含まれるとし、この枠組みは、セクハラと同じ解釈となっています。

 

 

類型

① 身体的な攻撃(暴行・傷害)

② 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

③ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間はずし・無視)

④ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)

⑤ 過少な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

⑥ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

 ⇒①~③については、通常、業務の遂行に必要なものではないため、基本的にパワハラに該当すします。特に①と②については、刑事事件になる可能性があります。

 ⇒④~⑥については、「業務の適正な範囲を超える」かは、合理的な判断基準を会社内で共有しておく必要性があるとされています。

 ⇒この①~⑥以外であってもパワハラに該当すると判断される場合があるとのことです。

 

 民事上の個別労働関係紛争相談件数で、「いじめ・嫌がらせ」に関するものは平成14年度には、第4位でしたが、平成22年度には第2位となっていて、ここ最近の状況は深刻になってきているといえます。

 そのもっとも影響が大きいものは、パワハラを受けた当該人が、退職するという問題だけではなく、職場環境の悪化により、社内のモチベーションが下がってしまい、職場全体の生産性が下がってきてしまうことがあげられています。

 「パワーハラスメントの実態に関する調査研究(平成17年中央労働災害防止協会)」でも、パワハラが企業にもたらす損失として、

 「社員の心の健康を害する」(83%)   「職場風土を悪くする」(80%)

 「本人のみならず周りの士気が低下する」(70%)

 「職場の生産性を低下させる」(67%)   「十分に能力の発揮ができない」(59%)

となっています。

 

 問題の背景には、職場内のコミュニケーションの希薄化や問題解決機能の低下、上司のマネジメントスキルの低下、上司の価値観と部下の価値観の相違の拡大などがあげられています。

 「最近の若い人は耐性がなくなってきている、我々の若いころはこんなことぐらい普通にあった。」という傾向が多少あるにしても、それが原因とばかりに対策を怠っていては状況はひどくなるばかりです。会社全体の問題として取り組む必要性が今後ますます重要になってきています。

 

試用期間の雇用保険と社会保険の適用

 試用期間中は雇用保険・社会保険の適用の手続きを行わない会社が中小企業を中心に結構あります。 試用期間というのは、一般的に労働者の勤務能力・勤務態度・健康状態等が会社の就労にふさわしいかどうかを見極める期間という意味を持ち、労働基準法上は「試みの使用期間」といいます。

 試用期間の長さは、一般的には2~3ヶ月間が多く、4ヶ月以上としている会社もあり、法的には1年以内なら試用期間として認められています。 しかし、試用期間という名称がついていたとしても、雇用契約の開始日は雇用が始まった日とされていて、原則として雇用が開始されている日に会社側の都合で一方的に契約を打ち切ると、試用期間中であっても、民法上の「解約」、労働基準法上の「解雇」となります。つまり、民法では契約を締結したとしても明確な理由があるなら一方的にその契約を破棄しても、責任を問われることのない期間を2週間と定めていますし、労働基準法では、契約開始から14日以内であれば、解雇予告も解雇予告手当ても必要ないとされています。

試用期間というのはあくまで長期の雇用を前提にしている制度ですから、試用期間が1ヶ月でも6ヶ月でもそのあとには期間の定めのない雇用契約があることになるので、もし、試用期間経過後に雇用契約を打ち切るのであればそれは、最初から1ヶ月なり6ヶ月の期間雇用契約にはなりえず、その場合は、最初から雇用期間が1ヶ月なり6ヶ月なりを明記して契約を締結しなければならないことになり、そうすると、最初から試用期間というものは存在しないことになります。
ですから、雇用保険・社会保険の適用は、試用期間が定められてあってもなくても、労働契約の最初の日から適用になりますので、雇用保険であれば、契約開始日の属する月の翌月の10日まで、社会保険は契約開始日から5日以内に届け出る必要があります。(労災保険は会社が適用されていれば契約開始日から自動的に適用になりますので、届出は必要ありません)  ちなみに、雇用保険と社会保険では適用者に違いがありますので、参考までに列記いたします。

雇用保険の適用除外者
 (1)65歳に達した日以降にその会社に初めて雇用された場合
 (2)短時間労働者であって(フルタイムであれば雇用期間が短くても対象になる)  
  1.季節的に雇用される場合
  2.日雇いの場合  
  3.4ヶ月以内の期間を予定して行われる季節的事業に雇用される場合
  4.船員
  5.公務員
(3)所定労働時間が週20時間未満の場合
主にパートで、1日3時間なら6日以下、4時間なら4日以下、5時間なら3日以下となります。20時間きっちりあれば適用になりますのでご注意下さい。

社会保険の適用除外者
 (1)船員
 (2)臨時に使用される者であって
   1.2ヶ月以内の期間を定めて使用される場合  所定の期間を超えたらその超えた日から適用される。  
   2.日雇いの場合   1ヶ月を超えたらその日から適用される。
 (3)季節的業務に使用される場合  4ヶ月以内。最初から4ヶ月以上の予定なら最初から適用になる。
 (4)臨時的事業に使用される場合  6ヶ月以内。最初から6ヶ月以上の予定なら最初から適用になる。
 (5)事業所の所在地が一定しない事業に使用される場合
 (6)国民健康保険組合の事業所に使用される場合 等 また、1週間の所定労働時間が通常の労働者より短い場合(いわゆるパートですが)は、通常の労働者の所定労働時間のおおむね4分の3以上(30時間ではありません)なら適用になります。  
 おおむね4分の3というのは、1日の勤務時間が9:00から17:00(休憩12:00から1時間)で週休2日の場合所定労働時間が7時間×5日=35時間になり、その4分の3ですから26時間15分以上であれば適用ということです。つまりその会社では1日に5時間15分以上働くパートは、適用になることになります。

労働基準法の改正

 平成16年1月1日付で改正労働基準法が施行されます(公布は平成15年7月4日)。そのなかで、すべての会社に関係のある事項は解雇に関する部分の改正です(労基法第18条の2)。  『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。』という条文が新設されました。これは、解雇をめぐる裁判で出された判決文をそのまま条文にしただけですが、従来から『解雇権濫用法理』として、行われた解雇が正当かどうかの判断に使われてきました。それが、正式に労働関係の法律(労働基準法)に条文として記載されたことは大きな意味を持ちます。   それではその対応はどのようにすればよいのか、各事例に基づいて解説します。  まず採用時から見ていきますと、試用期間中に本採用にするかどうかの判断をし、会社が不適格と判断すれば採用を取り消すことなります。試用期間中であっても採用から14日経過してもいなくても、採用を取り消すという理由でしても「解雇」となります。また、期間の定めのない雇用でも、有期雇用であっても更新を繰り返していれば、一般解雇・整理解雇・懲戒解雇のいずれのときでも、理由がはっきり(つまり就業規則等の文書で理由が明示されている)していなければなりません。勿論、それは以前から変わらないのですが、事業主も従業員も無制限に解雇できると考えておられる方がかなりおられました。しかし、昨今の社会経済状態から、解雇が社会問題化してきて、「解雇」はなかなか勝手にはできないと考える方が多くなってきています。  そこで、いずれのケースでも 1.理由がはっきりしていること 2.その具体的な理由が就業規則に記載されていること 3.従業員から解雇理由を記載した証明書を要求されたら、会社は発行しなければならないこと 4.具体的な理由は社会通念上合理的であること 5.「解雇」以前から手続きが段階を追って正当であること 等が要求されます。ですから、試用期間中または試用期間終了後の本採用取消の解雇・一般解雇・整理解雇・懲戒解雇のそれぞれに、その解雇理由を具体的に取り決め、就業規則に記載しなければなりません。  就業規則は事業主が作るものですから、具体的理由は何でもいいかというとそうではありません。そこは、上記「4」にあっていなければならないのです。  それでは、従業員が常時10人未満で就業規則を作成していない事業所はどうしたらいいのかといいますと、やはり作成しておいたほうがよいでしょう。労働基準法では、基本的に10人未満であれば作成しなくてもいいのではなく、10人以上いれば作成して届け出なければならないと規定されていますので、理想を言えば一人でもいれば作成しておくに越したことはありません。  就業規則の法的効力は、作成し従業員代表の意見を求め、全員に周知をすれば発効することになり、労働基準監督署に届け出ているかどうかは関係ありません。ただ、10人以上であれば届け出ないと罰則が科せられることになるだけです。(実際には先ず是正勧告が出るので、それに従わなければですが)  そのほか、労務管理上決めておくべきことがいろいろあり、問題が起こればそのつど決めていたのでは従業員の統一的な管理ができません。しかし、従業員の人数などによって決めておくべきことも必ずしも一定ではありません。従業員が少ないのに(例えば10人未満)高い費用を払って作るのはもったいない、とお考えの事業主さんも多いかと思いますが、従業員の人権意識の高まりとともに、従業員とトラブルが起きて、結局高い費用が必要になるケースが最近増えてきています。費用対効果を考えますと、決めるべきことは最初に決めておくことにより、手続きも取り決めに基づき進めていくほうが最終的には、安くつくことになります。  細かい点まで決める場合や、必要最低限でとどめておく場合など、事業主さんの希望や考え方、または従業員の規模別に就業規則例を用意していますので、当事務所にお気軽にご相談下さい。